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構造設計とは、建物を支える架構をデザインし、安全性を確保することで、建物利用者の命と建築主の資産を守る仕事です。また、意匠設計者・設備設計者・施工者と協業し、魅力的かつ快適な空間を実現することも大切な役割です。
この記事では、そうした構造設計の仕事内容や求められるスキルをご紹介します。構造設計に興味のある方、設計職で転職を考えている方は、ぜひご覧になってください。
目次
構造設計の仕事内容(実務)
それではさっそく構造設計の仕事内容について解説します。仕事の流れや意匠設計者・設備設計者との関わり方、施工段階での対応などを見ていきましょう。
構造設計とは
構造設計の大きな役割は、「建物の安全性を確保すること」と、「豊かな空間を実現すること」です。
構造設計の第一の役割は、法基準に則って地震や強風で発生する力を算定し、建物の安全性が保たれるように構造デザインを行うことです。建物のフレームとなる柱や大梁、地震や強風に抵抗する壁やブレース、床と床を支える小梁など、扱う構造部材は多岐に渡ります。近年は免震構造や制振構造といった特殊な構造形式も普及しているので、さらに高度な技術や知識が求められるでしょう。特に日本では、地震や台風などさまざまな災害が発生するため、建物の安全性に関わる構造設計は非常に重要な役割を担っています。
構造設計の第二の役割は、豊かな空間を実現することです。柱が大きすぎて部屋の使い勝手が悪くなったり、梁が大きすぎて設備配管が成立しなくなったりしてしまうと、よい建物にならないからです。そのためには、意匠設計者だけではなく、構造設計者も建築主の実現したい空間をよく理解し、意匠設計者・設備設計者と密にコミュニケーションを取りながら設計を進める必要があります。
構造設計の主な業務は、構造解析、部材検討、ディテールの検討、設計図書の作図、計算書の作成、申請業務、着工後の現場対応など。設計段階のプロジェクトと施工段階のプロジェクトを同時に担当することが多いので、それぞれの課題の期限を把握し、柔軟にスケジュールを調整しながら効率よくこなしていくのが大切。特に施工段階プロジェクトの課題は期限が短く早急に対応する必要があり、急な時間外労働が発生することもしばしばです。
意匠設計者や設備設計者との関わり方
先述したとおり、意匠設計者・構造設計者・設備設計者は、三位一体となり密にコミュニケーションを取りながら設計を進めるのが重要。デザインや使いやすさ、安全性、快適性がすべて成り立ってはじめてよい建物となるからです。
意匠設計者が建築主の要望を汲み取りながら作成した室構成に対して柱や壁などのレイアウトを検討します。ときには、大空間を実現するために柱をなくすような検討も必要です。その場合は梁を大きくするなどの条件を意匠設計者と設備設計者に共有し、変更後もすべてが成り立つことを確認しながら進めましょう。安全性を確かめながら慎重に魅力的な空間づくりを進めるのが構造設計のポイントです。
梁を設計するときは設備設計者と調整しながら進めます。設備配管を通すためには梁せい(梁の上端から下端までの高さ)をいくつにしなければいけないのか、梁に開口をあけて配管を通すときは開口径をいくつまで許容するのかなど、お互いにポイントをおさえながら進める必要があります。この調整がうまくいっていないと、天井高を下げて空間の魅力が損なわれることになるので、留意しておきましょう。
施工者との関わり方
設計がまとまり確認申請が完了すると、いよいよ施工段階です。構造設計と関わりが深いのは施工初期段階に着手する躯体工事なので、着工後すぐに施工者とのやり取りが始まります。
設計図書に関する質疑への回答、設計図書に表現できていないディテールの提示、施工性改善やコスト低減のための設計変更など、施工者の意見を取り入れながら柔軟に対応するのが大切。また、設計図書どおりに施工されていることを確認する監理業務を設計者が担う場合は、配筋検査や製品検査の調整を施工者と行います。
構造設計の仕事の一日の流れの例
構造設計者は複数プロジェクトを扱うことが多く、一日の始まりに現場対応を行い、そのあとに設計業務を行うのが一般的な流れ。施工段階プロジェクトの躯体工事中は打ち合わせや検査での外出が多いのが特徴です。
8:30~9:30 | 現場直行、現場対応プロジェクトの質疑対応 |
9:30~11:30 | 配筋検査や施工者との打ち合わせ |
11:30~13:00 | 会社に移動、昼食 |
13:00~14:00 | 構造メンバーと検討状況・方針の確認 |
14:00~15:00 | 意匠設計者・設備設計者との打ち合わせ |
15:00~17:30 | 構造検討(構造解析、部材検討、作図など) |
構造設計に求められるスキルと資格
ここでは、構造設計を行うにあたって、あるとよいスキルや資格をご紹介します。
スキル
構造設計でまず重要なのが力学的なセンスです。力の流れを直感的に理解し、力をうまく伝達できるように部材を配置していくのが構造設計の基本だからです。
また、他の設計者や施工者との密な情報伝達が必要なので、コミュニケーション能力も欠かせません。さらに、今までにない新たな架構形式の考案や、施工段階のトラブル対応においては、柔軟な発想力があるとよいでしょう。
構造設計者は業務量が多いため、スケジュール管理能力も大切です。時間外労働の抑制が重要視される昨今において特に求められる能力です。
資格
構造設計の資格には、「構造設計一級建築士」があります。「鉄骨造の建築物(4階建て以上、高さ13m超または軒高9m超)」「鉄筋コンクリート造の建築物(高さ20m超)」といった条件に該当する大規模な建築物を設計するときには「構造設計一級建築士」の関与が必須です。
また、「構造設計一級建築士」の受験資格は、「一級建築士資格を取得してから5年の構造設計の実務経験」となっています。そのため、「一級建築士」と「構造設計一級建築士」の2つは、大規模な建築物に関与する構造設計者に必要な資格です。どちらも非常に高度な資格ですが、取得することができれば大きな価値を持てるでしょう。
尚、建築士の資格についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
構造設計の魅力
構造設計の魅力は、難しい構造架構を成立させることで得られる達成感です。「この建物はなぜ壊れないのだろう」と思うような建物に出会ったことはありませんか?古くは「五重塔」、近年では佐々木睦郎氏の「仙台メディアテーク」など、時代の代表作には優れた構造設計が欠かせません。豊富な経験、柔軟な発想、実現までの行動力、あらゆる能力を発揮して建物を実現させたときの達成感は、ほかでは得られない特別なものです。
構造設計に向いている人
ここまで、構造設計の仕事内容などについて解説しました。そこで、構造設計に向いている人の特徴を以下にまとめます。
- 力学が好き
- 建物全体の力の流れの把握(マクロ)と、ディテールの検討(ミクロ)が得意
- さまざまな関係者との調整やコミュニケーションが得意
- 難しい問題に取り組み続ける根気がある
- 人の命に関わる重要な決断をできるメンタルがある
構造設計の平均年収
求人ボックスでは、構造設計の平均年収を496万円と公表しています。加えて、年収500万円~600万円台の方も多数います。この年収は、高いのでしょうか。設計業務全体の年収額と比較してみましょう。
転職サービスdoda「平均年収ランキング【最新版】」では、「設計(建設/土木)」の平均年収を456万円と公表しています。構造設計の年収額は、設計業務全体の平均年収よりも40万円ほど高くなっています。努力を積み実力をアップすれば、500万円や600万円といった年収を得ることも十分に可能な職種です。
構造設計の求人募集例
「建築転職」で取り扱っている建築系の求人の中から、構造設計の求人募集の一例をご紹介します。
(※2023年8月時点の求人情報です。募集内容は変わる可能性があります)
スーパーゼネコンの構造設計の求人
- 仕事内容:構造設計の業務全般
- 応募条件:構造設計の実務経験5年以上、一級建築士(構造一級建築士)の資格を保有
- 完全週休2日制(土曜日、日曜日)
- 年収5,200,000円 〜 8,500,000円
- 中規模〜大規模の建築物における構造設計の仕事の求人です
創業90年の老舗の建設会社の求人
- 仕事内容:商業施設、学校、マンションなどの構造設計
- 応募条件:一級建築士、構造設計一級建築士のいずれかの資格、ゼネコンでの構造設計経験(5年以上)
- 完全週休二日制(土日)祝日
- 年収6,000,000円 〜 8,000,000円
- 寺社仏閣の修繕も手掛ける建設会社です
建築業界専門の転職エージェント「建築転職」では、上記以外の好条件の求人のほか、非公開求人情報も紹介しております。下記から無料登録できます。
転職するならエージェントに相談してみよう
構造設計の仕事に興味がある方は、転職エージェントに相談してみてください。より細かい仕事内容、仕事への適性、就職活動の有利な進め方などをアドバイスしてくれます。まずは話を聞くだけでも相談してみるとよいでしょう。
「建築転職」は建設・建築業専門の転職エージェントですので、業界の知識や事情に精通しています。業界実務経験や国家資格を持つコンサルタントが多数在籍していますので、一般的な転職エージェントとは異なり、建築業界における専門的なキャリアを的確に把握し、価値を見いだすことが可能です。登録・相談は無料ですので、これから転職しようと考えている方や、転職に悩んでいる方は、ぜひ利用してみてください。
おわりに
利用者の命と建築主の資産を守り、豊かな空間を実現する構造設計。よい建物を実現するには欠かせない役割です。高度な技術と知識が求められる難しい仕事ではありますが、建物が実現したときに得られる達成感は何ものにも代えられません。力学が好きで、スケールの大きなものづくりに取り組みたい方は、構造設計者を目指してみてはいかがでしょうか。
この記事を監修した人
株式会社トップリフォームPLUS
取締役
小森 武
保有資格:1級施工管理技士・一級建築士
最後までお読みいただきありがとうございます。
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