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みなさまのなかには、「建築基準適合判定資格者」という名前を聞いた方はあるけれど、どのような資格か知らない方も多いのではないでしょうか。建築物の安全・安心を守るうえで欠かせない資格ですから、受験には条件があります。また「建築主事」との関係が気になる方もいるでしょう。
それでは、どのようなステップを踏めば資格を取れるのでしょうか。この記事ではまず、資格の特徴やメリット、建築主事との関連を解説します。その後に受験資格や合格率、登録方法を説明します。建築基準適合判定資格者について知りたい方は、ぜひお読みください。
目次
建築基準適合判定資格者とは?
建築基準適合判定資格者は、これから建てようとする建築物が法令に適合しているかをチェックできる資格です。建築物は設計から引き渡しまでの間に、以下に挙げる3種類の検査を受けなければなりません。
- 建築確認申請
- 中間検査(検査不要とする建物もある)
- 完了検査
建築確認申請は提出された書面をもとに、中間検査や完了検査は書面に加えて現地での調査によりチェックを行います。建築物のチェックにおける責任者として、建築基準適合判定資格者は重要な役割を担う資格です。
資格を持つ方を求める職場は、大きく2つに分かれます。
職場 | 職種 |
---|---|
都道府県や市区町村 | 建築主事になれる |
民間の指定確認検査機関 | 確認検査員になれる |
現在では都市部を中心に、多くの建築物が指定確認検査機関によってチェックされています。民間の指定確認検査機関は、資格を得た方にとって主な就職先となるでしょう。
建築主事とは?建築基準適合判定資格者検定との関係
建築主事(けんちくしゅじ)は、建築基準適合判定資格者のうち要件を満たした一部の方がなれる職種です。以下2つが要件となります。
- 都道府県または建築主事を置く市町村の職員
- 所属する自治体の首長(知事や市長など)により任命される
建築主事は47都道府県や東京23区のすべてにいる一方で、職員を配置する市町は381に限られます。人口25万人以上の市や都道府県庁所在地には必ずいる一方で、村には配置されていません。建築基準適合判定資格者になったうえで公務員になる必要があること、就職先が限られることは、建築主事を目指すうえで押さえておきたいポイントです。
建築確認申請にもBIMを導入する時代に
「建築BIMの社会実装に向けた今後の取組と将来像」(国土交通省住宅局)*1のなかで、「BIMによる建築確認の環境整備」が掲げられています。
2025年からは以下のようなスキームの審査が始められる予定です。
- 受信者はBIMから出力されたPDF図面を提出する。あわせてBIMデータを参考として提出する。
- 審査者はPDF図面で審査を行う。BIMデータを受け取ることで従来の整合性確認が不要になる。
さらには、BIMデータも審査の対象とする取り組みが並行して検討されています。これらの取り組みが実現することで、建築基準適合判定資格者の働き方が改善されるはずです。そのためには、建築基準適合判定資格者もBIMモデルを扱えるようになる必要があります。
建築基準適合判定資格者になるメリットは?
建築基準適合判定資格者になるメリットは、いくつかあります。この記事では主な3つのメリットを取り上げ、詳しく解説していきます。
比較的安定した職種に就ける
建物を建てる際には、法令で定められた検査を受けることが必須です。「急いでいるから」「当社は業績が悪いから」などの理由で、一部の検査を省略することは認められません。検査すべき建物の数が決まれば、仕事の量も決まってくるわけです。同業他社との競合はあるものの、比較的安定した職種に就ける資格といえるでしょう。
資格を取れる方が限られる
建築基準適合判定資格者の試験は、一級建築士になったのち2年以上の実務経験を積んだ方でないと出願できません。誰でも門戸が開かれている資格ではないため、ここ数年の合格者数は250名~350名程度にとどまっています。競争相手がなかなか増えないことから希少性が高く、有資格者のメリットを活かしやすいわけです。
但し国土交通省では、試験制度に関して以下に挙げる変更を検討しています。
- 実務経験を登録要件に変更し、一級建築士の資格があれば受験できるようにする
- 二級建築主事(仮称)の資格を新設し、二級建築士にも法適合性を審査する業務への門戸を開く
上記の変更が行われると、今よりも有資格者どうしの競争は激しくなるかもしれません。
高いスキルが認められ、待遇のアップや転職の幅が広がる
建築基準適合判定資格者を持つことで、建築に関する高いスキルを証明できます。給与や職位など、待遇のアップにつながることでしょう。
より良い職場を求めて転職する場合も、建築基準適合判定資格者は有利です。指定確認検査機関や建築主事への転職は、資格を活かせる点で強みといえるでしょう。高いスキルを活かして、より良い職場を選びやすくなることもメリットに挙げられます。
建築基準適合判定資格者の受験資格
建築基準適合判定資格者を受験する方は、一級建築士の有資格者でなければなりません。そのうえで、建築物の検査や審査、教育・研究に関する経験を、出願の時点で2年以上積んでいることが求められます。
受験資格に当てはまる業務は、さまざまです。3つに分けて、どのような業務を経験していれば出願できるか確認していきましょう。以下のいずれかに当てはまる方は出願できます。
その1:建築基準法第5条第3項の規定による場合
民間で活躍している方の多くは、この項目に該当することでしょう。建築審査会の委員や中間検査、完了検査、住宅の検査業務、研究や教育など、広範囲におよびます。国土交通省では受験資格として認められる業務の例に、以下の項目を挙げています。
- 都道府県の建築審査会委員
- 大学や大学院における、建築に関する教育または研究(教授または准教授に限る)
- 建築物の確認、中間検査又は完了検査
- 構造計算適合判定業務
- 住宅性能評価業務
- 住宅性能保証制度における検査業務
- 住宅瑕疵担保責任保険制度における検査業務
- 住宅金融公庫の融資住宅の審査
- 住宅金融支援機構の融資住宅の審査
その2:建築行政に係る実務による場合
公務員で実務に携わる方は、こちらに該当する場合が多いでしょう。国土交通省では、以下を例に挙げています。
- 建築物の確認、中間検査又は完了検査
- 住宅金融公庫の融資住宅の図面現場審査
- 違反建築物の調査・処理
- 定期報告の審査・指導
- 建築協定、地区計画に関する業務
- 建築物の許可に関する業務
- 道路位置指定に関する業務
- 長期優良住宅建築等計画の認定審査
- 耐震改修計画の認定審査
- バリアフリー法に基づく特定建築物の認定審査
- 建築物省エネ法に基づく適合性判定に係る審査
その3:国土交通大臣が認めた業務の場合
その1やその2に該当しない場合でも、受験資格を得られるケースがあります。国土交通省では、「他者の設計した計画等の法令等適合性を審査・検査する業務等」を例に挙げています。
この場合、受検申込書の「職務内容」には「その他」と書き、かっこ書きで具体的な業務の内容を記載してください。受験が認められるかどうかは、審査のうえ判断されます。なお受験が認められない場合でも、受験料は返還されません。
建築基準適合判定資格者の合格率
建築基準適合判定資格者の合格率は、30%~40%で推移しています。平成30年から令和4年までの合格率を、以下の表にまとめました。
年度 | 合格率 | 合格者数 |
---|---|---|
令和4年 | 36.0% | 354名 |
令和3年 | 29.2% | 272名 |
令和2年 | 29.2% | 274名 |
令和元年 | 31.8% | 352名 |
平成30年 | 39.7% | 461名 |
合格者数は、おおむね250名~350名で推移しています。経験ある一級建築士のうち3割から4割しか合格できないため、難しい試験といえるでしょう。
建築基準適合判定資格者の登録方法(登録の流れ)
建築基準適合判定資格者検定に合格した方は、所定の登録手続きを行うことで建築基準適合判定資格者になれます。手続き方法を確認していきましょう。
手続きの流れ
「建築基準適合判定資格者登録申請書」と必要書類を、都道府県の窓口に提出することで手続きが始まります。提出先の都道府県は、お住まいまたは勤務先のどちらかを選べます。窓口の名称は都道府県ごとに異なるため、事前に確認してください。申請書のダウンロードを兼ねてチェックするとよいでしょう。
申請後は国の地方整備局において登録が行われ、申請した都道府県を通して登録証が交付されます。登録証を早く入手したいからといって、地方整備局に直接申請することはできないので注意してください。
申請方法や登録証の受け取り方法は、都道府県によって大きく異なります。
- 申請も交付も窓口・郵送いずれかを選べる(愛知県)
- 申請は窓口、交付は窓口・郵送どちらでも可(神奈川県)
- 申請・交付ともに郵送(東京都)
- 申請・交付ともに窓口のみ(千葉県)
公式サイトに詳細が書かれていない道府県も多いため、不明な点は申請前に確認することをおすすめします。
必要書類や費用
建築基準適合判定資格者の登録を申請する際には、以下の書類が必要です。
- 建築基準適合判定資格者登録申請書
- 住民票の写し(本籍が記載され、マイナンバーが記載されていないもの。発行から6カ月以内)
- 「建築基準適合判定資格者検定合格通知書」または「建築主事資格検定合格証書」の写し
- 国や都道府県、市町村の職員の場合は、職員証など在職を証明する書類の写し
費用は22,000円で、郵便局などで収入印紙を購入して添付します。但し国や都道府県、市町村の職員が申請する場合は1万円となります。
建築基準適合判定資格者の転職先の例
ここまで解説したとおり、建築基準適合判定資格者の転職先は大きく以下の2つに分かれます。
- 都道府県や市区町村の公務員として、建築主事に採用される
- 民間の指定確認検査機関に、確認検査員として就職する
このうち建築主事は設置されている自治体が限られているため、狭き門です。実際の求人を見ても、確認検査員の募集が多くなっています。建築基準適合判定資格者の多くは、民間の指定確認検査機関へ転職し、業務に携わることになるでしょう。
建築基準適合判定資格者の平均年収
求人ボックスでは建築基準適合判定資格者の平均年収を、499万円と公表しています。年収の分布を見ると、400万円~600万円の方が多くなっています。
この年収額は平均的な社会人とほぼ同程度、またはやや多めです。国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」では、給与所得者の平均給与を443万円と公表しました。建築基準適合判定資格者の多くは、この金額を上回るでしょう。
一方で600万円を超える年収の方は少ないため、大幅な年収のアップはあまり望めません。しかし平均的な生活ができる収入を得られることに、大きなメリットを感じる方も多いのではないでしょうか。
建築基準適合判定資格者の求人募集例
「建築転職」で取り扱っている建築系の求人の中から、建築基準適合判定資格者の求人募集の一例をご紹介します。
(※2023年8月時点の求人情報です。募集内容は変わる可能性があります)
国土交通省指定確認検査機関の求人
- 仕事内容:建築物の確認・審査業務(意匠・構造)
- 応募条件:一級建築士か1級施工管理士の資格、戸建住宅・マンション・ビル・商業施設等の設計経験
- 完全週休2日制(土日祝休み)、年間休日124日
- 年収4,000,000円 〜 6,500,000円
- 勤務形態専門業務型裁量労働制
公共事業の設計業務メインの求人
- 仕事内容:土木施設計画、設計業務
- 応募条件:一級建築士か1級施工管理士の資格、戸建住宅・マンション・ビル・商業施設等の設計経験
- 完全週休2日制(土日祝休み)
- 年収2,800,000円 〜 5,600,000円
- 技術研修、階層別研修等あり
なお、施工管理技士の資格についてこちらの記事で詳しく解説しています。
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おわりに
建築基準適合判定資格者になるためには、まず一級建築士として経験を積む必要があります。合格率も高くないため、資格を取るまでのハードルは高めです。
一方で資格を取った後は確認検査員や建築主事への道が開かれ、職業の選択肢が広がります。より良い待遇や仕事のやりがいも得やすくなるでしょう。建物の安全・安心に携わりたいという熱意をお持ちの方は、ぜひ目指してみてはいかがでしょうか。
尚、建築士の仕事内容についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
この記事を監修した人
株式会社トップリフォームPLUS
取締役
小森 武
保有資格:1級施工管理技士・一級建築士
最後までお読みいただきありがとうございます。
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