構造設計一級建築士に関する疑問をQ&A形式で解決!資格概要、取得するメリット、取得要件、修了率、転職先、求人の年収例etc…

構造設計一級建築士に関する疑問をQ&A形式で解決!資格概要、取得するメリット、取得要件、修了率、求人の年収例etc...

建築の仕事に携わっていると、よく「構造設計一級建築士」という言葉を耳にします。どのような資格か、気になる方も多いでしょう。また一級建築士との相違点を知ることは、今後のキャリア形成にも役立つ情報です。さまざまな疑問を持ちつつも、なかなか職場では聞けないという方も多いのではないでしょうか?

この記事では構造設計一級建築士に関して、よくある疑問をQ&A形式で解説します。

構造設計一級建築士はどんな資格?

構造設計一級建築士は、設計業務を通して建物の安全を守る資格です。高い建物を建てる場合、強度が不足していると倒壊など大きな被害を引き起こしかねません。構造設計一級建築士は建築物の設計や法適合確認を通して、安心して使える建物づくりに欠かせない仕事です。

構造設計一級建築士の関与を要する建築物の例を、以下に挙げました。

  • 高さが60メートルを超える建築物
  • 木造建築物で、高さが13メートルを超えるか軒高が9メートルを超える場合
  • 鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造で、高さが20メートルを超える建築物
  • 鉄骨造の建築物で、高さが13メートル超、軒高9メートル超、4階建て以上のいずれかを満たす場合
  • 柱の間隔が長い、または耐力壁が少ない建築物

オフィスビルやホテルなどは、該当するケースが多いでしょう。このような建物は都市部で建てられる場合が多いため、構造設計一級建築士は、都市部で求められやすい資格といえます。

構造設計の仕事については、以下の記事で詳しく解説しています。

一級建築士との違い

構造設計一級建築士は、一級建築士になった後、構造設計の実務経験を積んだ方が取得を目指す資格です。この点で一級建築士よりも上位の資格であり、建物の構造に熟知していることも特徴に挙げられます。

実務の面でも違いがあります。一級建築士は、すべての建物について設計業務を行えることになっています。しかし構造設計一級建築士の関与を要する建築物の場合は、一級建築士が設計しただけの状態で建築確認申請を行っても受理されません。この場合は構造設計一級建築士が自ら法適合確認を行い、記名・押印する必要があります。

一級建築士の資格については以下の記事で詳しく解説しています。

構造設計一級建築士の資格を取るメリットは?

構造設計一級建築士の資格を取ることで、いくつかのメリットが得られます。主な3つのメリットについて確認していきましょう。

大規模な建築物で設計の手腕を発揮できる

構造設計一級建築士を持つ方は、大規模な建築物の設計や法適合確認を実施できます。設計した建物が安全であるということを確認する仕事ですから、責任は重大です。そのぶん設計の手腕を存分に発揮でき、やりがいも得られるでしょう。

もし社内で構造設計一級建築士があなたしかいない場合、構造設計に関するチェックの仕事がすべてあなたの担当となるわけです。貴重な人材として、会社だけでなく取引先からも高く評価されることでしょう。

年収アップが見込める

年収アップが見込めることも、資格を取る主なメリットに挙げられます。「求人ボックス」では一級建築士と構造設計一級建築士の平均年収について、以下のとおり公表しています。

  • 一級建築士:
    平均年収は499万円。300万円台後半から400万円台前半の方も多い
  • 構造設計一級建築士:
    平均年収は598万円。多くの方は500万円~600万円台前半に集中する

受け取れる年収額に大きな違いがあることがわかります。経済的な余裕が得られることも、メリットの一つといえるでしょう。

より良い条件での転職を実現しやすい

構造設計一級建築士の人数は、一級建築士のみを持つ方と比べて大幅に少なくなっています。毎年の合格者数は一級建築士が3,000人台であるのに対し、構造設計一級建築士は200人台です。

希少価値があるうえに構造設計一級建築士しかできない業務を持つため、有資格者は多くの企業から求められています。選択肢が多くなるため、より良い条件での転職を実現しやすくなることもメリットに挙げられます。
尚、建築士の転職についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

構造設計一級建築士の資格取得後の転職先は?

構造設計一級建築士は、大規模または複雑な建築物に関わる仕事で役立つ資格です。このため転職先は、大規模な法人が主体となるでしょう。

  • ゼネコンやスーパーゼネコン
  • 大手設計事務所

また豊富な経験や人脈を持つ方は、独立して自ら設計事務所を立ち上げることも可能です。

【取得要件】構造設計一級建築士になるには?

構造設計一級建築士になるには以下の要件を満たしたうえで、「構造設計一級建築士講習」を受講し修了考査に合格する必要があります。

  • 一級建築士であること
  • 一級建築士として、5年以上構造設計の業務に従事した方

2番の業務には確認審査や構造計算適合性判定の業務(いずれも補助業務を含む)、工事監理の業務も含まれます。一方で設計業務でも、意匠設計や設備設計業務に従事した期間は含まれないことに注意してください。

ここからは講習の対象となる科目や所要日数、修了考査について解説します。

講習の受講は会場とオンラインを選べる

講習の受講方法は、会場とオンラインを選べます。会場で受講する場合は、「法適合確認」と「構造設計」あわせて2日間となり、朝10時から午後6時近くまで講義が行われます。なお講義は、事前に撮影された動画を上映する形で行われます。また講義中に一定時間以上の離席があると欠席となり、修了考査を受けられなくなるので注意してください。

オンラインでの受講は、配信動画の受講により行います。配信期間は2週間程度ありますから、都合の良いタイミングで受講してください。すべての動画を視聴した方は、修了考査を受験できます。

修了考査はすべての設問が記述式

修了考査は全地区の講習が終了した後、別の日を設けて全国一斉に行われます。オンラインで受講した方も、修了考査は試験会場に出向き受験しなければなりません。

修了考査は「法適合確認」と「構造設計」の考査区分に分けて行われ、どちらも制限時間は3時間です。また出題形式と設問数は、以下のとおりとなっています。

  • 理由記述付き4肢択一式(10問)
  • 記述式(3問)

1番の設問は選択式と思いがちですが、実質的には記述式です。なぜなら正解と思う選択肢を選ぶだけでなく、その選択肢を選んだ理由を記述しなければ正解とならないためです。学習にあたっては答えを知るだけでなく、正解を導き出すプロセスも含めて学ぶ必要があります。

もし修了考査に落ちてしまったら、どうすればいい?

この場合、資格を取るためには講習を再度受講し直さなければなりません。受講すべき科目は、「法適合確認」「構造設計」どちらかに合格しているか、両方とも落ちたかにより異なります。

どちらかに合格した方は、翌年度と翌々年度の講習について合格した科目の講義と修了考査を受けずに済みます。例えば「法適合確認」に合格した方は、構造設計の講義と修了考査だけ出席すればよいわけです。このため時間と費用を節約できます。

一方で両方とも落ちた方は講習をはじめから受講し直し、修了考査も受け直す必要があります。

修了考査に落ちる方は、思いのほか多いです。修了率や難易度について、次の章で確認していきましょう。

【修了率】構造設計一級建築士の難易度はどのくらい?

受講者が経験豊富な方ばかりという点を踏まえると、構造設計一級建築士講習の修了率は高くありません。受講者のうち3分の1しか修了できない講習の難易度は、高いといえるでしょう。平成30年から令和4年までの修了率を、以下にまとめました。

全受講者の修了率 全科目受講者の修了率 法適合確認のみ受講者の修了率 構造設計のみ受講者の修了率
令和4年 36.3% 30.0% 74.4% 39.3%
令和3年 29.9% 25.0% 45.0% 52.5%
令和2年 36.1% 28.7% 59.3% 57.7%
令和元年 28.1% 24.3% 34.8% 43.8%
平成30年 40.4% 33.6% 82.4% 60.5%

出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「構造設計一級建築士講習データ」

一度の講習で法適合確認と構造設計を両方とも合格できる方は、全体の3割程度にとどまります。一方で、どちらか片方を合格した方の修了率は5割程度にアップします。経験豊富だからといって油断せず、学習をしっかり進めることが重要です。

おわりに

構造設計一級建築士の資格を得ることでスケールの大きい仕事を任され、手腕を発揮できます。簡単に取得できる資格でないため、苦労も多いでしょう。しかし希少価値のあるぶん、資格を取得すれば大企業などでの活躍も期待できます。

資格を得るためには一級建築士の資格に加えて、構造設計での実務経験が5年以上必要です。豊富な実務経験をお持ちの方は、さらなるステップアップを目指してチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

この記事を監修した人

プロフィール写真

株式会社トップリフォームPLUS
取締役
小森 武

保有資格:1級施工管理技士・一級建築士

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