建設業にも36協定の時間外労働の上限規制が適用、働き方はどう変わる?

建設業にも36協定の時間外労働の上限規制が適用、働き方はどう変わる?

時間外労働時間には上限規制が設けられており、本来であれば建設業もその例外ではありません。しかし、人手不足など課題の多い建設業には、2024年4月1日まで上限規制の適用が猶予されています。つまり、建設業も2024年4月1日からは、時間外労働の上限規制に対応が必須となるわけです。

当記事では、間もなく建設業に対する上限規制適用の猶予期限が訪れることを踏まえて、上限となる時間や例外など上限規制の内容について解説を行っています。また、上限規制の適用を受けて今後の建設業では、どのように働くべきかについても解説を行っています。建設業に関わる方は、是非参考にしてください。

建設業にも36協定の時間外労働の上限規制が適用

2019年4月1日より改正労働基準法が施行され、大企業を対象として時間外労働時間に新たな上限が設けられることになりました。1年の猶予期限が設けられていた中小企業も2020年4月1日から、大企業と同様に上限規制の適用を受けています。

しかし、2020年4月1日以後も、その働き方や業種特有の問題などから一定期間上限規制の適用除外となる業種が存在します。上限規制の適用除外の対象となる業種は次の通りです。

  • 建設業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

この他にも、新商品・新技術の研究開発業務に従事する労働者には、例外として期限なく上限規制の適用がありません。

建設業などに対する時間外労働の上限規制の適用猶予は、2024年3月31日までの措置となっています。他業種と同様に上限規制の適用を受けるまで、時間的な余裕はありません。短い期間で上限規制に対応することは容易ではありませんが、猶予期限の延長措置なども行われないため、対応は業界を挙げての急務となっています。

建設業が猶予対象となっていた理由

現在の日本では少子高齢化から来る労働力人口の減少が続いています。ただし、国も手をこまねいているわけではなく、労働力不足となっている業種へ労働力を供給するために、特定技能外国人制度を創設しています。しかし、特定技能外国人制度の創設があっても、労働力不足の問題が解消されたとはいい難いのが現状です。

建設業も労働力不足が問題となっている業種の1つであり、特定技能外国人の受け入れ対象ともなっています。また、建設業には、長時間労働や休日出勤の常態化といった業界特有の問題があります。この問題は猶予期間を設けても、なお解消されているとはいい難く、結果として求職者には建設業が就職先として魅力的な業界には映りません。そのため、建設業は、他の業種に比べて人材確保がより困難なのが現状です。

労働力人口の減少による人材確保の困難さに加え、業界特有の労働環境の問題が建設業の労働力不足に拍車を掛けています。このような背景から上限規制を適用しても対応が困難であると考えられ、建設業の猶予期間は長く取られることになりました。

建設業での働き方の現状

2016年のデータとなりますが、建設業における年間実労働時間は2056時間と、調査産業計の1720時間に比べて大幅に長くなっています。また、年間出勤日数においても、調査産業計が222日であるのに対して、建設業では251日と、こちらも大幅に上回っています。

また、労働基準法では、最低でも1週に1日又は、4週を通じて4日の休日を労働者に付与することを義務付けています。この規定はあくまでも最低の基準を定めたものであり、実際には週休2日など、より多く休日を付与することが企業に求められています。しかし、建設業においては、約半数が4週4日と最低限の休日で労働しているのが現状であり、1割程度は4週4日の最低基準すら満たせていません。

参考:国土交通省「建設業における働き方改革」

労働時間が長いということは、常態的な残業が行われているということでもあり、出勤日数が多ければ、それだけ休日が減ることになります。その結果が、建設業における長時間労働や休日出勤の常態化です。人手が足りないにも関わらず、業務量が減らないのであれば、一人当たりの業務量を増やして対応するしかありません。建設業における長時間労働や休日出勤の常態化は、ある意味当然の結果といえるでしょう。

36協定で定める時間外労働の上限規制について

現状建設業では、人手不足を補うために、残業や休日出勤を増やすことで対応しています。しかし、今まではそれで対応できたとしても、他業種と同様に上限規制の適用を受けるようになれば、たちまち上限を超過してしまうでしょう。

2024年4月1日から建設業であっても、他業種同様に原則として1か月45時間、年間360時間の時間外労働の上限規制が適用となります。しかし、納期の変更など突発的で予測し難い臨時的で特別の事情が生じる場合もあり得るでしょう。そのため、労働基準法では、特別条項付き36協定を締結することで、次の時間まで時間外労働を行うことを可能としています。ただし、時間外労働が45時間を超えることができるのは、年6回(6か月)までです。

  • 年間720時間以内(時間外労働のみの時間)
  • 単月100時間未満(時間外及び休日労働時間の合算)
  • 2か月~6か月の複数月平均80時間以内(時間外及び休日労働時間の合算)

時間外労働を行うために36協定の締結が必要であることは今までと変わりません。しかし、他業種同様に原則1か月45時間、年間360時間の上限規制の適用を受けることになります。また、原則となる上限を超える特別な事情がある場合には、特別条項付き36協定の締結が必要となることが上限規制適用による変更点です。

猶予期限後は、建設業においても上記の上限規制を遵守した働き方が必要となります。しかし、建設業においては、他業種と異なり、猶予期限後であっても一定の例外が設けられており、災害時の復旧・復興事業であれば、単月100時間未満と2か月~6か月の複数月平均80時間以内の上限規制は適用されません。ただし、この場合であっても、年間720時間や年6回までの制限は適用されることに注意が必要です。

上限規制に違反した場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が予定されており、知らなかったでは済まされません。上限規制を遵守できるようにしっかりと内容の把握を行いましょう。

時間外労働の上限規制適用で働き方はどう変わる?

他業種と同様に、建設業においても時間外労働の上限規制が適用されれば、これまでと同様の働き方を続けるのは困難となります。適用には例外があるとはいえ、災害時などごく限られた状況でしか認められず、通常の業務では否が応でも働き方を変えざるを得なくなるでしょう。

建設業において、まず必要となるのは、長時間労働や休日出勤の常態化をはじめとする労働環境の改善です。上限規制が適用されれば、これまでのような長時間労働や休日出勤が不可能となるため、改善が必要なのはいうまでもありません。また、労働環境を改善することで、求職者にとって魅力的な業界として映らなければ、根本的な問題である人手不足の解消も難しくなります。

建設業は「きつい」「汚い「危険」な仕事であるとして、いわゆる3Kのイメージを持たれることが多い業界です。建設業を管轄する国土交通省では、建設業のこれまでのイメージを払拭するべく、新3Kを打ち出して労働環境の改善を図っています。新3Kとは「給与」「休暇」「希望」の3つを指しており、新3Kを実現するためには、次のような対策が必要となります。

  • 適正な労務費の設定
  • 手当の確実な支給
  • 年次有給休暇取得推進
  • 週休2日の確保
  • 適正な工期設定
  • 新技術の活用による生産性の向上
  • 仕事に対するやりがいや誇りの醸成
  • 中長期的な建設業の担い手確保

新3Kの給与を実現するためには、適正な労務費の設定が必要です。多重下請構造のもとでは、労働費のダンピング競争が行われることもあり、労働者に適正な賃金が支払われないこともままあります。最低賃金を守っているから良いなどとは考えずに、労働に見合った適正な賃金を支払うことを心掛けましょう。また、建設業では時間外手当や休日出勤手当などの各種手当の未払いも多くなっており、こちらも改善が必要です。

建設業は、年次有給休暇の取得率においても、平均を下回っているため、取得しやすい環境整備などの改善が必要となります。また、約半数が4週4日の休暇という最低限の休暇しか確保できていない現状は早急に改善が必要であり、より多くの労働者が週休2日制の適用を受けるようにしなければなりません。もちろん法で定める最低の休日数を下回るようなことは論外となるため、休日が確保できるように適正な工期を確保することが必要です。

労働環境を変えるには、生産性の向上にも取り組む必要があります。これまでメジャーやスケールを使って行っていた計測作業は、カメラシステムを利用すれば省力化が可能です。また、新技術の活用による効果は生産性向上に留まりません。例えば、5G技術を用いて無人化施工を行えば、災害復旧など危険な現場でも安全な作業が可能となり、危険なイメージの払拭にも繋がります。

人手不足の解消ができたとしても、それが一時的なものであってはなりません。建設業を持続可能とするためには、中長期的な担い手が必要となります。そのためには、建設業が「ここで働きたい」と思わせるような誇りを持って働けるやりがいのある業界となることが必要です。

新3Kのいずれも簡単に実現できるようなものではありません。しかし、労働環境の改善は新規人材の確保のみならず、エンゲージメント向上による離職の防止にも繋がるため、人手不足の深刻な建設業においてはとりわけ重要です。労働環境の改善によって、人手不足が解消されることになれば、時間外労働の上限規制遵守にも繋がってくるため、無理だなどと考えずにできることから取り組んでみてください。

参考:新3Kを実現するための直轄工事における取組

おわりに(監修者コメント)

建設業への時間外労働の上限規制が適用されるまで、残り僅かとなりました。人手不足が深刻な建設業においては、上限規制への対応は困難なものとなりますが、違反には懲役や罰金といった罰則も予定されており、対応できなかった場合のペナルティは非常に重いものとなっています。

現在の建設業は、人手不足から労働環境が悪化し、悪化した労働環境を嫌い人材が集まらないという負のループに陥っているように思えます。このループを断ち切る方法は、労働環境を改善するというシンプルな一手のみなのですが、建設業の現状を考えると実現は容易いものではありません。

しかし、労働力人口の減少が続く日本において、建設業が今後も持続可能な業界として存続を願うのであれば、労働環境の改善は喫緊の課題といえるでしょう。労働環境の改善のためには、今後適用される時間外労働の上限規制に違反するようなことがあってはなりません。まず、上限規制の内容をしっかりと把握し、遵守することで足場を固めてみてはいかがでしょうか。

この記事を監修した人

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社会保険労務士
涌井好文(涌井社会保険労務士事務所代表)

平成26年に神奈川県で社会保険労務士として開業登録。以後、地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動。 近時はインターネット上でも活発に活動。クラウドソーシングサイトやSNSを通した記事執筆や記事監修も積極的に行っている。

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